項目 | 性能 | 評価方法など |
接触角 | 2度 | 接触角計 |
鉛筆硬度 | 6H | 鉛筆硬度計 |
羊毛擦り試験 | 500回以上 | テーバー式アブレーションテスター |
信頼性 | 変化なし | 85C85%RH 1000時間 -40C-125C 1000サイクル UV暴露 |
不燃性 | V-0 | UL94準拠 |
実は親水性表面というのは非常に汚れの付着しやすい状態でもあります。
特に親水性の汚れはコート表面と非常によく馴染みます。
生活環境の空気は実はいろいろな汚れ物質が含まれており、放っておくとそれらが徐々にコート材表面に堆積し超親水性が損なわれます。
それらの汚れのほとんどは雨が降ったり水をかけることで流れ落ちます。(鳥の糞は別物です)
つまり超親水性コートは自己洗浄性というよりも易洗浄性と言う方が正しい表現だと思います。
ガラスにコートした場合、ガラスに含まれているNaやCaが徐々にコート材表面に移動し空気中の水・炭酸ガスと反応してスケイルあるいはヤケと呼ばれる化合物を形成します。
化合物は炭酸ナトリウムや炭酸カルシウムであり、除去は容易ではない厄介な代物です。
親水性コートではNaやCaの移動が起こりやすい為、スケイル防止効果はあまり期待できません。
中性洗剤を用いたまめな洗浄がスケイル防止の一つの方法です。
太陽電池特有の現象ですが、湿度が高いと徐々に漏れ電流がセルにダメージを与えて出力が低下する現象がありPIDと呼ばれています。
PIDは湿度との関係が強く、湿度が高いとPID劣化が進行します。
つまり超親水性表面はPIDを加速し易い状態であり、太陽電池のカバーガラスに超親水性コートを行う場合は注意が必要です。
詳しくは「太陽電池用コート」のセクションで説明します。
超撥水性の定義は水接触角が150度以上の場合を指しています。
今回紹介するAquaLord 600は147度の接触角なので正確には超撥水性では無いことになりますが実質的に超撥水性として理解して頂ければ幸いです。
AquaLord 600は多孔質構造の為、耐摩耗性能に不安があります。
従って以下のような用途が考えられます。
項目 | 性能 | 評価方法など |
接触角 | 147度 | 接触角計 |
信頼性 | 変化なし | 85C85%RH 1000時間 -40C-125C 1000サイクル UV暴露 |
不燃性 | V-0 | UL94準拠 |
一般にガラスのような平滑面上に有機物をコートした場合の接触角はコート材の末端の化学構造によって決定されます。
末端官能基 | 接触角 |
-OH | 5度 |
-CH3 | 50-60度 |
-CF3 | 90-120度 |
フッ素は最も電気陰性度の高い元素ですが、表面にフッ素を敷き詰めたような構造を作っても接触角は120度を超えることは出来ません。
120度以上の接触角を得る為には表面の凹凸構造が必須となります。
凹凸構造が大きい場合はWenzelの式に従って親水性表面はより親水性に、撥水性表面はより撥水性になります。
AquaLoed 501はこの理論に基づき真の表面積を大きくすることで2度の接触角を得ています。
凹凸構造が小さいとCassieの式に従った接触角になります。
AquaLord 600はこの理論に基づいて設計されています。
ここで重要なことは、最も接触角が大きく身近な材料は空気だということです。
空気の接触角は180度と見なす事が出来ます。
Cassieの式に従う場合、水の入り込めない細孔部が多くなると120度以上の接触角が可能になります。
式に基づいて接触角を計算した結果を示します。
fxとは水滴がふれる面積中で真にコート材と触れる面積の比です。もしfxが0.8(80%)ならfairは0.2(20%)ということです。
面白いことに、親水性の-OH表面でも多孔質構造にすれば120度以上の接触角を得ることも可能だという事が分かります。
実際、実験では何度も作成出来ています。
さて、Wenzelの式によれば、接触角が90度未満の場合、表面に微細凹凸を作ると接触角がより小さくなります。
ところが、微細構造の度が過ぎると今度は強撥水性になります。
水が(正確には水のクラスターが、だと思いますが)凹凸に入り込めないサイズが超親水性から強撥水への転換点になるはずです。
経験値的には10nmくらいの細孔径だと水が細孔内に浸透出来ないようです。
以上のように120度以上の接触角は緻密で平滑な構造ではなく、微細な凹凸構造によって発現します。
そして微細凹凸構造体では強度と透明性に課題が発生します。
透明性については解決は難しいものではありません。
撥水コート材の膜厚や表面凹凸構造の厚みを薄くすれば良いのです。
実験的には膜厚50nm以下、表面凹凸の最大高低差を20nm以下にすればクリアな膜が得られました。
原子力間顕微鏡(AFM)を用いて観察した表面構造を下に示します。
強度については解決はかなり難しいものになります。
素材自体を硬くする、弾性を与えて応力を弾性変形として受け止める、表面の滑り摩擦抵抗を下げるなどの方法がありますが、いずれも車のフロントガラスのような摺動を受ける部分には限界があるようです。
他のフロントガラス用撥水コート材メーカーさんが述べてますが、超撥水コートを施した後は「決してワイパーを使用しないで下さい。」というのも一つの方法なんでしょうか?
現在太陽電池の長期使用には2つの問題があります。
1.カバーガラスの汚れによる出力劣化
2.PID(potential induced degradation)による出力劣化
あまり知られていませんが(あまり実用化されていない、と言う表現が妥当かも)、それぞれの出力劣化に対して効果のあるコーティングがあります。
結論を先に述べると、1.のカバーガラスの汚れに対しては超親水性コート、2.のPIDに対しては超撥水コートが効果的です。
カバーがラスの汚れは単なる砂塵類の堆積だけではなくホットスポット・イオンデポジットやウォータースポット等の問題も含みます。
これらに対しては撥水性よりも親水性の方が効果があります。
わたしもかつて撥水コートを推薦していましたが、まず見た目からして撥水コートは良くないです。水滴が乾いた跡のウォータースポットが発生し易いのです。
それに静電気で埃が付きやすい。むしろ汚れ易くなります。
接触角120度以上の高撥水コートの場合はどういう結果になるか分かりませんが、①ガラスの透光率を妨げず ②耐摩耗性などの信頼性が高く ③施工が簡単で ④低価格な 高撥水コート材というものを見たことがありません。
従って、完全な洗浄は難しくても汚れを均一に薄く広げることが出来る超親水性コートの方が太陽電池のカバーがラスには適しているというのが私の結論です。
AquaLord 501はこの目的に適した材料です。
一方で、PIDとはモジュールの表面が短絡電流の流れる回路になってしまい、ガラス中のナトリウムなどがセル表面に移動してて発生する問題です。
下図の赤い破線が短絡電流の流れる部分です。モジュールの外側です。
その結果、いくつものセルが動作不良になります。
下図において左側がPID加速試験前、右側が加速試験後の状態です。白く見えるセルは元気に発電しているセルです。
暗くなってしまったセルがPIDによって劣化したセルであり、全体として40%も出力がダウンしています。
また、劣化したセルは図の右側のように周辺配置されたセルが多いことからPIDの原因となる短絡電流はモジュールの外面から流れている事が分かります。
つまりモジュールの表面を親水性にするとPID劣化は加速されます。カバーガラスの表面を親水性にすると防汚性は良くなりますがPID的には改悪になるということです。
それならば、カバーガラス以外の短絡回路形成部に対して撥水性コートをコートすれば効果があるのではないか、というのが2.のPIDフリーコーティングです。
具体的にはアルミフレームの外面です。アルミフレームは親水性なので湿度が高いと薄い水の膜が出来、電流はその水の膜を流れます。
その水の膜を断裂させることがPIDフリーの方法であり、撥水性であればあるほど望ましいようです。
AquaLord 600はこの目的に適した材料です。
下図はアルミフレームにAquaLord 600をスプレー塗布した後の撥水性の写真です。
超親水と超撥水の使い分け、これがキーポイントです。
ちなみに、太陽電池モジュールを全て撥水性コートで包むという案は既に公知化されています。公知化したのは私です。(苦笑)
2014年に上海で開催されたSNECにおいてポスター発表しています。そのポスターのデザインを下に示します。
クリックすれば画像が大きくなります。
もう一つ大事なことがあります。それは価格です。
現在市販されている超親水性コート材や超撥水性コート材は高価すぎます。
太陽電池には比較対象としてARC材というものがありますが、この価格は約20円/m2です。
これと同等以下の価格でないと本格的には使用されないと思います。
勿論AquaLord 501, 600はこの価格帯に合うように設計されています。